就活での自己分析。「そんなことより面接対策したほうがよいのでは?」「どうしてやらないといけないの?」と思いがちですが、採用担当者から見たら、自己分析の有無は合否に密接に関わっています。
今回は現役の採用担当者として、株式会社文化放送キャリアパートナーズ キャリア支援部部長 倉澤陽子氏が、「自己分析とは何か」「どう自己PRやガクチカ、志望動機に結び付けるか」「選考通過率をどう上げていくか」等々を、「採用担当者視点」から伝授します!
まずはここから。自己分析のトリセツ
──本日はよろしくお願いします。さっそくなのですが、どうして自己分析ってやらないといけないのでしょう?やらないといけないとして、どんな目的があるのでしょうか?
倉澤:就活で自己分析をやらないといけないと言われても、正しくその意義や目的を理解していないと、結局うまくいきません。
そもそも自己分析とは、「社会で活きる自分の力を知る」ということです。よく、大学のガイダンスや講座の中でおおまかな就活スケジュールを聞いて、その一環として、何となくやらなければならないものという考えでいる人がいます。さらに、自分のPRポイントにするため、「誰にも負けないエピソード」とか「すごいエピソード」に結び付けなきゃと思っている人も多くいますね。「リーダーをやりました」とか「皆をまとめました」とか「すごい大変なことを克服しました」とか……。そんなすごいエピソードを見つけてこないといけないという、ある種のプレッシャーを抱いている就活生が、かなり多いのかなと……。
就活における自己分析の定義は、もっとシンプルに「自分に合う働き方や企業を見つける下準備」です。過去の自分を棚卸しして、自分の良さや価値観を明確にしていくのが、最初の一歩ですね。
他の人と比べる必要もないので、あまり難しく考えなくてよいのですが、「自分に合う働き方や企業を見つける」ために自己分析をするという点は、押さえていてほしいなと思いますね。
そのうえで、就活における自己分析の目的を考えていきましょう。目的は大きく分けて、「自分にマッチする企業や働き方が見つかる」「人に話す際、分かりやすく説明できるようになる」の2点です。
目的として大きな割合を占めるのは「自分にマッチする企業や働き方が見つかる」ですので、まずはこちらを説明してきますね。勘違いすべきでないのは、「自己分析をした≠自分に合う企業が即見つかる」という点です。自己分析をして、さらに企業研究を行うことで、初めて自分に合う企業が見つかっていきます。ただ自己分析をしただけだと、結局誰もが知っている有名企業しか視野に入らないので……。あくまで自己分析をすることによって、「自分がどんな基準で企業を選ぶか」や、「自分が大切にしている価値観や考え方が定まってくる」という捉え方をするとよいと思います。
「人に話す際、分かりやすく説明できるようになる」については、自己分析を経たうえで、自身の強みを発揮されたエピソードを志望動機や自己PR等に盛り込むことで、説得力を持たせられるということですね。具体的なやり方は後程説明しますね。
──自己分析の目的はわかりました。では、どうやって自己分析をしていけばよいのでしょうか?
倉澤:まずは単純に、自分がどういったときに楽しいとか嫌だと思うか等を整理して、自分の良さや価値観を明確にしていく方法が1つ。
次に、自己分析診断を受ける方法があります。Web上にある無料の自己分析診断を受ける方法もあれば、大学のガイダンスや講座の一環で、自己分析診断ツールが提供されることもありますね。
あとは家族や友人といった第三者から、自分はどんな人かを話してもらう他己分析もあったりします。
方法としては色々ありますので、自分に合ったやり方で進めてもらうと良いかなと思います。
──なるほど、では自己分析診断等を受けたとして、どうやって分析したり、深堀したりすればよいのでしょうか?
倉澤:診断結果を見て、「あーなるほどねー以上(診断結果ゴミ箱へ)」という人が多いのですが、就活においてそれはもったいないです。
もう一歩踏み込んで、「全部当てはまるわけではないけれど、これは自分に当てはまるな」「この部分は納得」と思う部分をまずチェックしてみましょう。そのうえで、当てはまる・納得と思った部分について、どういう経験やできごとがあったかを思い出していくと、自身の思考・行動パターンや、何を大事にしているか等が見えてくる可能性があります。「これは当てはまる」「ここは納得」という部分を、深掘りの「きっかけ」にしていくという形ですね。
また、自分で診断結果を見てもいまいちピンとこない場合は、家族や友人といった身近な人に「当てはまる」部分をピックアップしてもらうのもよいかもしれないですね。
具体的な経験やできごとをピックアップし、なぜ当てはまるのかを探っていくことが、自己分析の深堀りにつながっていきますよ。
──ちなみに、自己分析はいつから始めればよいのでしょうか?
倉澤:大学生だったら、まずは1、2年生のうちに、一度自己分析をしておいてよいのかなと思います。3年生以降になると、どうしても就活を意識した自己分析にならざるをえないという側面もありますので……。ただ、大学生活を通し色々な価値観に触れていくことで、当初の自己分析結果から変わっていく人もいます。なので、3年生以降の自己分析が無駄になることは全くありません。
ちなみに時期を空けて自己分析をした際、以前と変わった部分・変わらない部分をピックアップして、振り返りをするというのも、人によってはおすすめしていますね。とはいえ全く変わらない人もいれば、逆に180度変わる人もいたり、はたまた変わった部分もあれば変わらない部分もある人もいるので、変わる・変わらないそのものに良い・悪いということはないです。
自己分析をどうやって自己PRにつなげる?
──ずばり「就活でのESや面接において、自己PRと自己分析をうまくつなげるには」どうすればよいのでしょう?
倉澤:これはずばり「社会でどう活きる力なのか」が明確に伝わる表現になると、うまくつながっているといえます。「相手に正しく伝わる」ことが前提ですので、相手側の立場(仕事や社会)を意識した伝え方が大事です。
例として「私は優しい人間です」と自己PRをしたとします。けれど、人事担当者からみれば「ただ優しいと言われても、仕事や社会生活でどう活きるのか」が不明瞭ですよね。この場合、ただ「私は優しい人間です」と自己PRするよりも、例えば「相手の話に耳を傾け、自分事として共に取り組むことにやりがいを感じます」と伝えたほうが、人事担当者も「なるほど、ではお客さんとのやり取りでも、相手に沿った提案をできそうだな」「取引先に寄り添った提案ができそうだ」といった形で、断然伝わります。
こういった「その力がどう社会とつながっていくか」を伝えることができることこそ、自己分析の結果をうまく反映した自己PRだと思いますね。
──なるほど、ただ「こういう力があります(ドヤ顔)」と伝えるのでなく、「働き始めたとき、どういった形で活かせるか」を伝えるというわけですね。ちなみに自己PRにつなげるにあたって、自己分析ってどこまでやるべきなのでしょうか?ゴールを知りたいという就活生は、かなり多いと思います。
倉澤:まず大前提として、人間は一生変わり続けるものなので、自己分析にゴールはありません。たった1つの確実な答えを探そうとすると、終わらない自分探しを続けることになります。
実際に私が相談に乗った就活生の話で言えば、「自己分析が終わらない限り次に進めない」と考えて、大学4年生になっても自己分析を続けていることがありました。真面目な就活生ほどこう考えてしまう傾向にあるようです。
ですので、就活における自己分析の区切りは「大きな方向性」「伝えるための材料」が見つかった時点で十分です。明確にいつまでに区切らないといけないというのはありませんが、大学生の場合、インターンシップ参加や選考対策も同時並行で行いつつ、遅くとも3年生の秋冬までに、ある程度区切りをつけるといいかなと思いますね。
自己分析をこう活かせ!選考通過率アップ!
──自己分析の結果から得られた要素を、実際の面接の場で、自己PR・ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)・志望動機として、どのように会話に盛り込んでいけばよいのでしょうか?
倉澤:まずはいずれも共通して、その力を発揮してきた具体的なエピソードを入れるようにしましょう。エピソードの大小は問わないですが、そのエピソードを知らない人が、話を聞いただけで想像できるよう、具体的に話すことを意識してほしいですね。
そのことを踏まえたうえで、自己PR・ガクチカ・志望動機について、それぞれ注意すべき点をお話ししていきますね。
まず自己PRで注意すべき点だと、面接官としては、なるべく直近のエピソードを話してくれるとよいですね。具体的には大学入学以降です。高校時代の話が悪いわけではないのですが、基本的に「大学生を採用するのだから、大学時代の話を聞きたいな」と思いますね。実際の面接でも、高校時代の話をする人はそれなりにいるのですが、私を含め「今もその活動は続けているのか」「高校時代の経験が、どう現在に活きているのか」という質問をする採用担当者は多いです。やはり採用担当者共通で、「今」の話を聞きたいというのはありますね。
ただ、就活の講師によっては、小中学校時代も含めてPRしましょうという指導をしているケースもあるようですが……。基本的に高校時代までだと、年齢的に周囲の大人からの指導やサポートがあることが前提です。それに対し大学時代になると、大人として主体的に行動しているとみなしやすいので、よりその人が伝わりやすいです。
ですので、高校時代からの話をしたいという人は、「今にどうつながっているか」をセットにするとよいですよ。
次にガクチカだと、「学業」「アルバイト」「部活・サークル」等々、たしかに企業によって、反応の良いテーマが多少変わってくる可能性はあります。ただ、就活生の皆さんからすれば意外かもしれませんが、個人的におすすめなのは「学業(授業)」についてですね。
成績の良し悪しだけでなく、なぜその授業を履修したのかや、どういうポイントに興味を持ったのかといった点は、大学生らしさだけでなく個性も表れるので「入社したらこんな活躍をしてくれそうだな」というのも想像しやすいです。
よく「学生時代に力を入れたこと=本当に死に物狂いでやったことでないとダメ=だから学生時代に力を入れたことなんてない」とか、「賞を取ったとか優勝したといった結果を残せていなければ、力を入れたことにならない」といった考え方をする人も多いですが、キーワードの強さやエピソードの大小だけで受かる・落ちるということはありません。
ここでは学業の話で進めていますが、普段の学生生活でも自己PRにできるよという点は、皆さんにお伝えしておきたいですね。
最後に志望動機の注意点ですね。面接の場で就活生の話を聞いていると、各々志望企業を調べて、キーワードになりうる要素を入れていたりと工夫がみられるものの、ただその企業を褒めて終わっているような志望動機も多いです。例えば「シェアNo1」とか「SDGsに力を入れていて、共感しました」とかですね。
それだと「あなたがどんな人か」が見えてこないので、伝える際に自己分析から得られた自分の強みと、志望先企業の強みに共通点があることを伝えるとよいと思います。
ただ、気を付けてほしいのは、企業の強みと自分の強みを、無理やり結び付けないようにするという点ですね。無理に結び付けたとしても、面接官はその人の強みを読み取ることができません。そうなると、どうしても評価そのものができないので、他の人と同じような志望動機だなという評価にせざるをえないわけです。自分との接点とは何かを入れ、強みは自然に結びついているかをチェックすることで、無理なくオリジナリティを出すようにしましょう。
──なるほど、こうしてみると、自己PR・ガクチカ・志望動機は、事前の準備で乗り越えられそうですね。でも就活では当然、面接での何気ない会話や、想定していない質問も出るわけですよね。そういった場面で、自己分析で得た結果を活かすには、どうしたらよいでしょう?
倉澤:就活においてそもそも論の話ですが、作りこみすぎは見抜かれますし、ボロも出ます。採用担当者も「素の部分」が見たいと思っているのです。
企業が求める人物像にあまりにも寄せてしまうと、想定していない質問をされたときに悪い意味でギャップが生じてしまいますので、その部分で無理して求める人物像になりきらなくてもよいのかなと思います。
もちろん企業も求める人物像を掲げていることは多いものの、新卒採用で全員そのタイプが欲しいというわけではありません。例えば実際に私の実例だと、「チャレンジ精神」を求める人物像にしていた年がありました。その時、就活生も「チャレンジ精神があります!」と、やはり自己PRや会話の中で推してくるんですね。ところが話を聞いていると、もっと別の良さがあるのに無理にチャレンジ精神を推している感がどうしても分かってしまいます。そこで就活生が想定していないであろう質問をしたら、「協調性」とか「論理的」とか、別の良い面が出てきたということも多々ありました。
自己分析をしっかりとやっていれば、ある程度は「自分はこういう人だ」ということが分かってきます。その部分を押さえておけば、慌てず対応もしやすいですし、押さえたうえで話をしていけば、面接を通して「この人はこういう人なんだ」という一貫性も伝わってくるので分かりやすいです。
もちろん就活において、「この人はこういう人なんだ」と100%伝わったからといって、必ずしも受かるというわけではありませんが……。けれど、伝わったうえで評価されるのと、そもそも伝わらずに評価されるのでは雲泥の差ですので、やはりその意味でも自己分析は、面接全体を通しての基礎だといえると思います。
現役面接官が教える!自己分析をできている・できていないでここまで違う
──ここまでの話を聞いていると「就活では、自己分析はざっとやっておけばOK。話も矛盾が生じないようにすればいいのね」で終わってしまう人も出てくるような気がしてきたのですが……。
倉澤:たしかに就活における自己分析は、ある程度で区切りをつけるべきとは言いましたが、それでもしっかりできている人とできていない人だと、話す内容に明確な差が出ますね。
まず自己分析をできている人は、自分と企業の共通点や、マッチングについて表現できています。対して自己分析をできていない人は、志望企業の良いところを褒めるだけだったり、自分のやりたいことだけを伝えている──つまり企業でどんな活躍をしそうか見えてこないんです。
自分のことを深く語れないから、周辺的な情報を論理立てたストーリーとして仕立てがちです。「課題がありました→こういうやり方で成功に導きました。以上」という感じですね。もちろん周辺情報を話したり、論理的に話をすること自体は悪くありません。けれどその人の個性が出る「どんな苦労があったのですか」「その時あなたはどう考えたのですか」「どうしてその考えに至ったのですか」といった、結果に至るまでの過程について質問をしても、回答が「意見をまとめました」「皆と協力しました」「大変だが乗り越えました」といった、手段・結果の話や、周辺的な話しか返ってこないんです。
例えば部活ならば、「出来事」や「所属している組織」についてはスムーズに話せるものの、その中での「あなたの目的」や「考え」といった質問に対し、曖昧な答えになるのを見ると、自己分析ができていないのかなと思ってしまいますね。
面接試験という場である以上、「この人は会社に入って色々な場面に遭遇する中で、どんな形で課題や困難を解決していこうとするのか」や「この人が会社に入ってきたとき、どんな形で活躍していきそうか」を採用担当者は見たがります。だからこそ、それを知るべく深掘りして聞いているのに、こちらの意図を感じ取れない人に対しては、どうしても評価のしようがないですし、やはり自己分析ができていないのかなと判断せざるをえません。
さらにそれは、面接官の意図をくみ取れないという意味でも、評価が下がってしまいます。やはり大前提として、聞いたことに対しズレていない返答をできること、つまりコミュニケーションのキャッチボールができるかは、社会人の基礎的な部分として見ていますね。
繰り返しになりますが、面接全体での基礎になるからこそ、自己分析をしっかりしておくことで「あなたがどんな人か」を伝えられるようにしておくことは大事ですし、「あなたがどんな人か」を知るために面接官が色々と質問しているということは、理解しておいてほしいですね。
──自己分析を避けていると、結果として何も面接官に伝わらなくなる可能性があるのですね。ちなみに自己分析が不足していると、他にも何か危険性はあったりしますか?
倉澤:「企業風土とのミスマッチ」を引き起こす可能性が高くなりますね。よく「憧れの●●業界だから」「昔から商品を使っている企業だから」「誰もが知っている有名企業だから」といった、ブランドや企業名だけで志望をしている人がいます。ただ、同じ業界内であったとしても、企業によって風土は全く違いますし、ましてや知っている企業=自分に合うという考えは早計です。実際の選考段階でも「うちっぽくないなあ=この人と当社の方向性は相当違う」ということが往々にしてあります。そういった人がもし仮に入社できたとしても、仕事への理解も深まっていかないですし、結局ミスマッチが生じてしまう可能性は高いですよね。
企業風土が自分に合うかどうかを理解するためには、自分の考え方や方向性、価値観に合うかを知っておくという意味でも、やはり自己分析の大切さが分かると思います。
とはいえ、最初から完璧に自己分析をするというのは難しいという場合もありますので、業界・企業研究と同時並行で少しずつ進めていくというのも手ですね。
答えがないからこそ
──最後に、就活生の皆さんにメッセージをお願いします。
倉澤:今までは大学入試等「●点取ったから合格!」とか「これをやったら正解!」ということが多かったと思いますが、就活は定量的な試験ではないので、「何が正解か」で悩む人が非常に多いです。良くも悪くも第三者的な基準がない分、自身の考えや、自身がどうしていきたいかが就活の基準になります。だからこそ自己分析は重要になっていきます。
たしかに就活は、社会人になってからのスタートという点で深く考え込みすぎてしまいがちですが、これから色々なことに触れて楽しみながら、社会に出る自分の強みを、少しずつ明確にしていってください!
プロフィール:倉澤陽子 [株式会社文化放送キャリアパートナーズ キャリア支援部 部長]
2005年より現職。就職/採用活動の最前線で15年以上に渡り、就活生/企業双方にとってより良い就職/採用とは何かを追求し続けている。産業カウンセラー・国家資格キャリアコンサルタントとして多くの就活生に関わり、その見識の広さから、自社内で採用面接官を担当するのみならず、他社の採用活動においてもアドバイザーとして携わる等、広く活躍している。
ブンナビでは、優良企業が参加する合同説明会をはじめ、一人ではなかなか出来ない選考対策セミナーなどの情報を発信しています。
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